テレビ朝日のアナウンサーを5年半勤めた後、サステナブルな社会を目指してホームケアブランド「aq(エーキュー)」をローンチした宇佐美さん。華やかなアナウンサーという職業と新たな起業という道はどういうつながりがあったのか。ローンチから間もなくポップアップストアを出店した背景をDEW代表取締役の宇佐美佑果さんに伺いました。
■楽しく気軽に社会問題の解決に取り組めるモノを提供したい
■ローンチ翌月にはポップアップストアに挑戦し1年で12回開催。その理由とは?
■調香師を招いたワークショップが好評となる
■店頭接客の重要性と課題とは
―まずはブランドのご紹介をお願いします。
2023年にローンチした「aq authentic quality(エーキュー、以下aq)は、ブランドコンセプトとして「こころを、空間を、地球を美しくするホームケアブランド」を掲げており、現在、住居用洗剤をオリジナルで製造販売しています。
ガラスボトルを使用し濃縮洗剤を水に混ぜて使用することで、プラスチックボトルの使い捨てのほか、ボトルや洗剤の輸送にかかるCO2排出削減に配慮しています。
また洗浄成分には大豆脂肪酸やヤシ油脂肪酸などの生分解性の高い、植物由来のものを使用しており、人や地球にやさしい処方設計になっています。洗剤の香りは合成香料ではなく、すべて天然精油を使用し、一部の香りの原料には本来廃棄される予定の国産ゆずなどを使用したりもしています。
香りやボトルの色が選べるので、自分好みの洗剤で家をお掃除することが心地よい癒しの時間になり、それが結果的に人や環境にも配慮できるという商品です。「気軽に」「楽しく」がキーポイントですね。
―宇佐美さんのベースにあるサステナブルに対する共感は、どこで培われたのでしょうか?
そうですね。
家族の都合で1歳ぐらいから日本と海外を行き来しており、小学校1年生から3年生まではドイツに住んでいました。今から20年以上前ですが、すでにドイツは環境先進国としてエコバックを持つとか、リサイクルといった意識が当たり前の感覚でした。
ところが4年生になって日本に帰ってくると、プラスチックの大量消費やポイ捨て・歩きたばこが当たり前の現状で、小学生ながらとても驚きました。
中学時代には南米のチリに移り住み、貧富の格差を目の当たりにしたんです。貧しい人たちの家が洪水によって流されているのは、環境問題の影響が少なからずあるという事実も知りました。
その後、高校生になって帰国したら、日本は平和で安全で楽しくて、それ自体は素晴らしいことなのですが、自分と違う景色を見てきた同級生たちの社会問題への意識の違いや低さに少し違和感を覚えました。
環境、ジェンダー、貧困といった社会問題は、すごく重く感じたり、他人事のように思いがちですが、私はそれまでの経験から少しでも身近に感じてアクションを取る人が増える世の中になって欲しいと思うようになりました。それがファーストキャリアのアナウンサーに繋がります。
私の場合、たまたま多くの問題について知る・考えるきっかけがあったのですが、まず「知ること」が大事だと思ったので、その一助になりたいと思い、伝え手のアナウンサーとして、6年近くテレビ朝日で働きました。でもアナウンサーのままでは、伝えることはできてもその先のマインドセットを変えていくことまでは見届けられません。
そこで退職し、渡英して途上国支援や環境問題などをビジネスでどう解決できるかについて大学院で学び、2020年の卒業と同時に会社を設立したんです。
―なるほど、アナウンサーから起業とは、キャリアが180度変わったように見えて実は一貫して社会問題に対する強い気持ちがあるのですね。
そうなんです。そして誰もが必要とする日用品であればサステナブルなメッセージをモノに乗せてより多くの人々に届けられるのではないかと考え、成分や容器にまで徹底して環境に配慮した住居用洗剤を販売しようと決めました。
すでに海外で販売されている色々な商品を試してみましたが、クオリティに不満が残ったり、洗浄力が弱かったり、香りが思うようなものではなかったり、理想的なものがありませんでした。それなら日本の方が良いものが作れるのではないかと思い立って、イチから工場を探し、商品開発をし、試行錯誤の末、2年半ほどかけてやっと満足いくものが出来上がりました。
2023年9月25日にローンチしたのがこの香りとボトルが選べるサステナブルな「フレグランス・ホームクリーナーセット」です。ちなみに9月25日というのは2015年に国連サミットでSDGsが採択された記念すべき日でもあるんです。
―立ち上げてすぐにポップアップストアを開催したんですね。
ローンチの1ヵ月後には広尾でお披露目的な位置づけで初めてのポップアップストアを開催しました。初めてだったので、当日の朝までてんやわんやでしたが……。
―まずはECなどで活動をし、様子をみつつポップアップストアを試みる企業が多い中、初動ですぐにポップアップストアという判断をしたのには理由がありますか?
むしろ私は逆の発想で、最初からECで様子を見るという選択肢がなかったんです。
今年の9月でローンチして1年経ちましたが、ポップアップストアをすでに12回やっているんですよ。とにかくいろんなところに出なきゃ駄目だと思っていました。
―それはなぜでしょう?
まず、このサステナブルなコンセプトが詰まった洗剤の世界観をちゃんと対面でお客様に伝えたいという思いが強いということ。
次に、香りが肝の商品なのですが、そこはネットで伝えるのはむずかしいですよね。容器のガラス瓶も好みで色を選べるのですが、写真を見るのと実物を見るのとでは全く印象が違うので実物を見てほしいんです。
実際、HPで見て候補の色を決めてきたけれど、実物を見てほかの色に変更した方も結構いらっしゃいました。
3つ目の理由としては、仮説検証ですね。
ターゲット設定や訴求方法が合っているか、どの訴求が誰にどういうふうに刺さっているかということは、直接お話できるポップアップストアで検証したいという思いがありました。
―オンラインと並行して活動していくというよりは、まずはポップアップストアだったと。
もちろんリソースが潤沢であれば、ポップアップストアとオンラインと並行してやりたいですね。
今もオンラインで展開もしていますが、凝ったLPを作ればもっとコンバージョンは上がると思いますし、オンライン担当がいれば任せられます。
けれども今は少ないリソースをどう使っていくか取捨選択する時期なので、まずはリアルで認知を増やしてからオンラインで本格的に行きたいという気持ちです。
―9月に新丸ビルで開催された「丸の内 POP UP week」(※)に出店をされましたが、いかがでしたか?
※2024年9月6日(金)~10月5日(土)の期間限定で、新丸ビル3Fアトリウムにて個性的な5つのブランドが週替わりで登場したオンライン限定販売のPOP UPイベント
今回は、弊社の商品を全く知らない通りすがりの人が見たときに、どう反応するかなというところが一番の検証ポイントでした。
まず、未既婚や子どもの有無にかかわらず、ちょっとだけ日々の生活を楽しく、豊かにしたくて、香りやインテリア、新しいものに興味のある20代後半から30代の人というのが一番大きいペルソナです。
その次がもう少し若い世代ではないかと予想していたのですが、蓋を開けたら40代から60代というペルソナよりも上の世代、あるいは男性でも興味を持ってくださる方がいて意外な結果でした。
特に新丸ビルという場所柄もあると思いますが、すごく当社の商品と相性が良いように感じました。
今回はローンチ1周年にちなんで「Find your only 1」と銘打って、プロの調香師の方に来てもらい、その場で希望に応じてあなただけのオンリー1の洗剤の香りをカスタムオーダーいただけるという企画をフックにしたんですね。それが非常に好評でした。
香りにひかれてフラッと来た人が、洗剤を買っていくという行動が思ったより多く見られましたので、香りにまつわる面白い企画をどんどんやってみたいです。
―今回のポップアップストアでは、既存のフォロワーさんもいらっしゃいましたか?
来てくださいました。というのは、私達のSNSはまだフォロワーが少ないので、こういったイベントがあるときには全員にDMしているんですよ。
やりすぎないようにはしていますが、フォローしてくれてありがとうございますという気持ちを込めて、フォロワーが1000人になるまでは続けようかなと思っています。
―すでにかなりの数のポップアップストアをこなしていらっしゃいますが、特に苦労する部分について教えてください。
接客でしょうか。
スポット的に派遣会社の活用を検討したこともありますが、今は基本的に知人にヘルプをお願いしています。というのは、知人たちはすでに何回か現場に立ってくれているので、商品への愛着とか説明の仕方がスポットのスタッフに比べて格段にうまいんですよね。売れ行きも全然違ってくるんです。
ただ今の規模なら知人のヘルプで事足りますが、今後のことを考えると派遣スタッフも考えなくてはいけないのでそこは課題です。
―ヘルプしてもらった知人には、接客マニュアルみたいなものを用意されたのでしょうか?
実は用意してなかったんです。でも多分、元々みんな社交的というか人当たりが良いからか、販売経験のない人が大半なのですが、気づいたらみんな積極的にお客様に声をかけてくれていたり、
わからないことがあっても私を見てすぐに真似をしてくれたりするので、気づいたらみんながそれぞれマニュアルを自分の中で作ってくれているという凄くありがたい構造が生まれていました。
―宇佐美さんは、アナウンサーもされていてコミュニケーションのプロなので、商品の魅力をどう伝えるかもお上手なんでしょうね。
瞬時にお客様の顔色を見て、どうトークをすすめて行くかを決めるスキルはこの1年で結構身につきました。
例えば香りにひかれて来たお客様が、この商品が洗剤だとわかったときに「じゃあ、いりません」となるか、「洗剤なんですか。えー!おもしろい」となるか分かれるので、どのタイミングで洗剤というワードを出すか、すごく考えています。
「このガラス瓶は、ウイスキーボトルの型だったものを使ってるんですよ」といったときの反応次第で次のトークを考えたりして、その場その場で対応している感じです。
―宇佐美さんであればわかっても、そのノウハウを他の人に伝達していくのはとてもむずかしそうですね。トークスクリプトを整備しておくと派遣会社もすぐにスタッフの教育に使えるので、「aq」の今後の展開を考える上でもいいかもしれません。
確かにそうかもしれませんね。今後取り組んでみます。
やはり、コンセプトもまだまだ認知されていませんし、パッと見たところ香水なのか何なのかよくわからない商品だったりもするので、説明を聞いて初めて「なるほど」と納得していただけるんですよね。
認知がまだされていないうちは、良さが伝わるとしたらやはり直に説明ができるポップアップストアが一番だと思いますので、新規獲得はポップアップストアで、リピート利用はオンラインで促すという形が最適なのかなと思っています。
―最後に今後の展望をお聞かせください。
ポップアップを今後も継続して対面でその良さを直接伝えつつ、次年度はオンラインにも本腰を入れていきたいですね。
具体的にはギフト系やウェディング関連も相性が良いかと思いますし、40~50代をターゲットとしたサイトに掲載してもらうとか、 卸先の開拓、大手ECプラットフォームへの出店、実店舗での販売や代理店を通じた展開も検討中です。
また、製品ラインナップとしては、現在の洗剤に加えて、お客様からご要望の多いルームディーフューザーや除菌消臭剤などの開発を予定しています。
―まだまだ成長の余地が残されていて、楽しみですね。宇佐美さんの武器である伝えるチカラとコンセプトへの強い信念で、よいものを作り、世の中に広めていってください。ご活躍をお祈りします。
本日はどうもありがとうございました。
宇佐美 佑果さま
株式会社DEW 代表取締役
テレビ朝日アナウンサーとして6年勤務後、英国サセックス大学大学院にて国際開発学修士号取得、2020年1月卒業。帰国後、より多くの人が社会問題や環境問題を『身近に』、社会貢献を『気軽に』感じられるような様々な機会を創出することをミッションに、株式会社DEWを設立。
株式会社DEW
本社所在地:東京都港区南青山二丁目2番15号 ウィン青山942
代表取締役 宇佐美 佑果
設立: 2020年6月5日
事業内容:サステナブル商品の企画、製造、販売、輸出入/エシカル商品販売企業のPRサポート/中小企業のSDGs貢献活動へのサポート
企業URL:https://aq-quality.com/
公式Instagram:https://www.instagram.com/aq_authenticquality/
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