公開日:2016年8月29日
更新日:2019年7月19日

これからの「ブランド」のつくり方 / Warby Parkerとknotに学ぶブランディング戦略

インターネットの発達によって、ブランディング戦略も大きな変革の時を迎えています。この記事では数年で人気ブランドに成長したWarby Parkerやknotの事例を元に、ファッションビジネスにおけるブランディング戦略についてご紹介します。

ファッションブランドとは切っても切り離せない「ブランディング」。

ブランディングというと多額の予算がかかり、ハイブランドにだけ必要なものというイメージがありますが、最近ではニューヨークを中心に効果的なブランディングによって大きな成長を見せるWeb発のブランドも増えてきています。

そこで今回は8/25に開催されたイベント「Start-Upのためのbranding×business」の中から、大成功したメーカーズ ウォッチknotやオープンしてすぐに大きな話題を呼んだオーダーシャツブランドKEIの事例を元に、ファッションビジネスにおけるブランディング戦略について、TO NINE代表の増田智士氏にお話いただいたセッションをレポートします。

“ブランディング”とはデザインや見た目だけではなく、もっと本質的なもの


▲TO NINE代表の増田智士氏

はじめまして、TO NINEの増田です。
今日は「ブランド×メーカー」というテーマでお話させていただきます。

みなさんの中で、ブランディングとは何かを説明できる方はいらっしゃいますか?

ブランディングって何でしょう?マーケティングって何でしょう?

これを正確に答えられる方って意外といないんです。

ブランディングとはデザインをかっこよくするとか見た目を変えるといったことではなく、もっと本質的なものだと僕は考えています。

前職でファッション系のブランドへコンサルティングを行っていた中で、このブランディングの手法を体系化して提供していきたいという思いがあり、TO NINEという会社を立ち上げたました。

これまで見てきた中で特にブランディングがうまいブランドが集まっているのがニューヨークです。

ブランディングという概念をいち早く捉えて体系化し、ロールモデルが作られています。

例えば今注目されているブランドとして、「Warby Parker」というメガネブランドがあります。


▲Warby Parkerのスクールバスを使ったポップアップストアの様子
出典:Warby Parker HP

Warby ParkerはFAST COMPANYという雑誌が発表した「もっともイノベーティブな企業ランキング」でアップルを抑えて1位に輝いた企業です。

彼らのどこが「イノベーティブ」なのか?

様々なポイントがありますが、

1)いい製品をいい価格で提供する

2)ソーシャルグッドな活動を行っている

3)ストア以外のコンタクトポイントをつくる

4)ブランディング戦略

の4つを中心に語られることが多いです。

中間流通をなくして高品質な製品を低価格で提供し、5つのフレームを家で試着できるように無料で送り、どれが似合うかをソーシャルにアップしようというキャンペーンなどユニークな取り組みを行っているのが彼らが評価されているポイントです。

しかし特に重要なのは4のブランディング戦略です。

以前ニューヨークにあるWarby Parkerのショールームへ行ったことがあるのですが、パッと見た感じでは何の変哲もない綺麗なお店という印象でした。

しかし彼らはブランドコンセプトでもある「メガネをかける、知性のある生活」を提案するために”本”をキーにしており、ショールームもたくさんの本が並べられています。

このショールームで買えるのは本とポストカードだけで、メイン商品であるメガネはその場では購入できないんですよ。

さらにスクールバスを利用したポップアップストアでも、「メガネをかけて本を読むというライフスタイルを提案」しています。

こうした見せ方によって人の情性に訴えかけて惹きつけ、そこに99ドルという合理性をかけあわせたことで一気に人気ブランドへと成長していきました。

“WHY”、”HOW”、”WHAT”の3つをひとつの軸で貫き通すことが重要


▲サイモン・シネックが提唱したゴールデンサークルの考え方。Whatではなく、Whyからはじめることが重要。

ビジネスマンであればご存知の方も多いかと思いますが、サイモン・シネック氏が提唱した「ゴールデンサークル」という考え方があります。

アップルと他のブランドの違いをよくこれで例えられるのですが、他のブランドが「こんな商品を作りました」という”WHAT”からはじめるのに対してアップルは「Think Different」という信念、”WHY”からはじめる点が、アップルと他ブランドとの差だと言われます。

しかし他のブランドも信念をもっているはずなんです。ではアップルと他のブランドはなにが違うのか。

僕は”WHY”から”WHAT”までの一貫性があるかだと考えています。

スティーブ・ジョブズの名言に
「“集中する”というのは、集中すべきものに『イエス』と言うことだと誰もが思っている。だが本当はまったく違う。それは、それ以外のたくさんの優れたアイデアに『ノー』と言うことだ。」
というものがありますが、”WHY”から”WHAT”まで一本の軸があれば、やるべきでないすべてのことに『ノー』と言うことができるのです。

そのためにも「”WHAT”のクオリティにこだわることが重要」で、見て・触った瞬間にダサいとか使いづらいと感じた瞬間にお客様は二度と戻ってきてはくれません。

スタートアップではMVP(Minimum Viable Productの略。実用最小限の製品と訳される。)やリーンスタートアップといった、まず小さく作るという考え方が主流ですが、ブランディングの軸をぶらさないためにもアウトプットにはこだわるべきだと思います。

吉祥寺から徒歩10分。住宅街にも関わらずknotの本店が行列の絶えない店舗になった理由


▲「時計のあるライフスタイルを楽しむ」をコンセプトにしたknotは、イメージビジュアルも日常生活やスタイリングに時計が自然に溶け込むことを意識。
出典:knot HP

こうしたブランディングのノウハウを生かした例としてメーカーズ ウォッチブランドのknotを紹介します。

knotはまだ立ち上げて2年程度ですが、吉祥寺、横浜、大阪、台湾に直営店を展開し、卸も合わせると100弱の店舗で展開するほど急激に成長しているブランドです。

もちろんknotにも先ほどお話しした”WHY”があります。

様々な想いや信念、考えはありますが、とくに既存の時計メーカーに対してのアンチテーゼがKnotにとっての強い”WHY”になっています。

既存の時計メーカーが作る時計はどんどん高単価になり、それが若者の時計離れを加速させているように感じていました。

また各社とも性能にフォーカスした広告展開やプロモーションが中心であったことから、knotは「時計のあるライフスタイルを楽しむ」というコンセプトで展開しました。

だからこそブランドのイメージビジュアルも時計にフォーカスするのではなく、全体のスタイリングや日常を切り取ったワンシーンを見せることで感情に訴えることを意識しています。

ビジュアルを見て「素敵」「かっこいい」と感じてもらい、品質の高さやカスタムオーダーできることを知り、購入に至る。

このように、「情性と理性の両輪をうまく組み合わせたブランディング」が功を奏していると思います。

▲knot 吉祥寺本店。楽しんでもらうことを意識した店作りで、住宅街の中にありながら行列の絶えない人気店舗に。
出典:knot HP

またknotの吉祥寺本店は駅から徒歩10分の住宅街にあります。
これまでのブランディングの常識では絶対に出店しないような場所です。

それでも週末には1時間待ちの行列ができ、吉祥寺店だけで月に約3000万円もの売り上げを作っています。
なぜそんなことが可能なのか。

まずknotの店舗にはガラスケースがありません。そもそもなぜ時計を売る上でガラスケースが必要なのでしょうか?

knotではガラスケースをなくして商品にふれられるようにしたことで、お客様が好きにパーツを組み合わせて楽しむことができます。

だからこそ『knotの店舗を訪れたお客様は「楽しい」とおっしゃる方が多い』。

knotは商品を売るためではなく、「体験の場を提供することを目的として出店」したので、吉祥寺徒歩10分の場所でいいんです。

そこに歩んでいく道筋すら楽しんでもらおう、それがknotの提案なのです。

ブランドビジネスは情性と理性の両輪が必要

▲KEIのイメージビジュアル。「最上の日常」をコンセプトに、シャツのある日常を表現。

KEIは2016年8月にリリースされたばかりのオーダーシャツブランドです。

knot同様に情性に訴えかけ、合理的な価格で品質の高い商品を提供することで情性と理性をうまく組み合わせています。

シャツは体にぴったりフィットしていないとかっこ悪いんです。でもオーダーメイドは高い。

だったら手の届きやすい価格、4980円でオーダーメイドシャツを提供しようということでKEIを立ち上げました。

サイズが合っていない既製シャツをアンチテーゼとして、多くの人が体にフィットした高品質なオーダーメイドシャツを提供しています。

なによりも着たいと思うかどうか、シャツとの日常をどう思うかを大切にしたいと思い、イメージビジュアルは日常の風景で撮っています。

理性の面では4980円という低価格にも関わらず貝ボタンしか使わない、縫製や産地へのこだわりなど高い品質にもこだわっています。

さらにオーダーメイドにも関わらず、メジャー不要なんです。

自動採寸というテクノロジーを取り入れることで、身長体重といった情報をいれるだけで体にフィットするシャツを提案しています。

KEIでは今Makuakeでクラウドファンディングを行っているのですが、開始から1日もかからずに目標金額に達し、話題を呼んでいるのもこうしたブランディングの結果だと考えています。
参考:シャツの概念を変える、永久ストレッチのオーダーメイドシャツ「KEI(ケイ)」

これからは合理性から入ってもスケールしない時代になっていきます。

そのためには”WHY”から”WHAT”まで一貫した軸を通し、アウトプットにこだわること。
アウトプットが中途半端ではブランディングはできません。

最初に情性に訴えかけて「欲しい」と思ってもらい、理性の部分で「こんなにいいところがあるんだ!」という点を理詰めしていく。

この順序が重要なんです。

こういった考え方は、ファッションだけではなく様々な分野に応用できるかと思いますので、参考になれば幸いです。