利用実績日数が約2倍、収益が約2.1倍に。横浜市交通局に学ぶ、駅構内スペース活用と出店募集DX
横浜市交通局は駅構内スペースの短期貸出を行っていましたが、アナログな手続きによる負担や稼働の偏りが課題でした。2024年5月にショップカウンターを導入した結果、約2年で利用実績日数は約2倍、収益も約2.1倍に拡大。本記事では、導入までの背景や運用見直し、最新成果から遊休スペース活用のヒントを探ります。

目次
横浜市の交通を支える駅空間を、乗車料以外の収益源へ
── 横浜市交通局の事業と、資産活用課の役割について教えてください。
主な事業はバスと地下鉄の運行管理です。バスは1日約31万人、ブルーラインとグリーンラインからなる地下鉄は1日約66万人に利用されています。資産活用課では、交通局が保有する資産を収益につなげるため、バス・地下鉄の広告掲載や駅構内スペースの有効活用など、乗車料収入以外の収益向上に取り組んでいます。
── 駅構内スペースでは、どのような駅や用途の利用が多かったのでしょうか?
戸塚駅、センター南駅、センター北駅、あざみ野駅など、乗降客数が多く、周辺に商業施設や住宅地がある駅で利用が進んでいました。特にセンター南駅とセンター北駅は、ファミリー層から学生まで幅広い利用者が行き交います。戸塚駅も他路線との乗換動線があり、人気の高いスペースです。
用途は携帯ショップのキャンペーンやプログラミング教室などのプロモーションが中心でした。一方、駅のにぎわいにつながる食物販など、より幅広いカテゴリの出店も増やしたいと考えていました。

導入前の課題は、集客・手続き・運営の3つ
── 駅構内スペースの集客や稼働には、どのような課題がありましたか?
当時の募集は交通局のホームページが中心だったため、リピーターの利用が多く、新規事業者との接点が限られていました。また、利用が人気駅や土日に集中し、駅や曜日によって稼働に偏りがあることも課題でした。
── 利用者と担当者の手続き面はいかがでしたか?
利用者から電話で空き状況の問い合わせを受け、担当者がカレンダーを確認して案内。メールで申請を受け付け、紙の許可書を郵送し、使用料は銀行窓口で納付していただく流れでした。利用者にも担当者にも、複数の手段をまたぐ煩雑さがありました。
── スペース運営の体制と、1案件あたりの業務負担を教えてください。
資産活用課には当時、会計年度任用職員を含め17名が在籍し、3つの担当に分かれていました。ポップアップスペースの運用は3名が担い、ほかの業務も兼務していたため、十分なリソースがある状況ではありませんでした。
新規利用者の案件では、電話説明、仮予約、許可書の郵送、入金確認などを合算すると、長い場合で1件あたり3時間ほどかかっていました。
── ショップカウンターを検討し始めた経緯を教えてください。
当初は、交通局の資産活用ポータルサイトを改修し、独自のシステムを構築する案も検討しました。しかし、市全体の情報システムを管轄する部署に相談したところ、開発コストが大きくなることが分かり、外部のサービスを活用する方針に切り替えました。
── 複数のサービスを比較するなかで、ショップカウンターを選んだ理由は何でしたか?
法人のビジネス利用に適したサービスであること、キッチンカーなど特定のカテゴリに限定されず幅広い用途に対応していること、駅スペースの掲載実績があったことが主な理由です。交通局のスペースとの親和性を感じました。
同じエリアに複数のスペースが掲載されており、利用者が立地や価格を比較しやすい点も評価しました。
── 本導入前の試験掲載では、どのような反応がありましたか?
営業担当の方からの提案で、一部スペースを3カ月間テスト掲載しました。すると、これまで接点のなかった業種から想定以上の問い合わせがあり、価格設定へのフィードバックも得られました。交通局のホームページだけでは把握しにくかった需要を確認できたことが、本導入の判断材料になりました。
── 実際の運用開始までに、庁内調整が必要だった点はありますか?
市の手続きには「要綱」で定められたルールがあり、紙で発行していた許可書を電子化するためには改正が必要でした。ツールを入れるだけではなく、運用に合わせてルールを柔軟に変更する必要があります。ほかの局でも同様の取り組みが進んでいたため、その流れを生かして調整できたと考えています。
紙で発行していた許可書の電子化にあたっては、市の「要綱」自体の改正が必要でした。単に既存の業務をそのままシステムへ置き換えるのではなく、ツールの導入をきっかけに運用ルールや業務フローそのものを見直すことが、結果として円滑なDX推進につながったと感じています。
導入初期に見えた変化
── 導入後、集客や問い合わせにはどのような変化がありましたか。
問い合わせ窓口をショップカウンターに集約したことで、資産活用課への電話やメールによる直接問い合わせは、ほぼなくなりました。既存利用者からの反発も心配していましたが、大きな混乱はありませんでした。
導入後4カ月で新規問い合わせは数十件近くあり、そのうち約6割が成約しました。収益は前年同期比20%増と、初期段階から手応えがありました。一方、グリーンライン沿線の発展や乗降客数の増加といった外部要因も、プラスに影響したと考えています。
問い合わせの用途も広がりました。交通局が期待していた食物販の利用に加え、雑貨を扱う個人事業主や電動車椅子の試乗会など、それまで接点の少なかった業種・企画からも相談が寄せられました。

── 運用面の負担はどのように変わりましたか?
1案件に費やす時間は、従来の約3分の2まで短縮できたと感じています。事前決済に移行したことで、紙の納入通知書の郵送や、案件ごとの入金確認、未入金時の督促も不要になり、入金管理の負担が軽減しました。
また、ショップカウンターへの掲載を起点に、駅構内ポスター、横浜市公式LINE、横浜市交通局の公式X、信用金庫・商工会議所とのビジネスマッチングなど、複数のチャネルを組み合わせた周知も進めました。プラットフォームに掲載するだけでなく、地域の接点を活用して需要を広げたことも特徴です。

導入約2年後、利用実績日数97.2%増、収益106.1%増
2026年5月28日に公表した成果報告リリースでは、導入前の令和5年度(2023年4月~2024年3月)と、導入から約2年が経過した令和7年度(2025年4月~2026年3月)を比較しています。以下は、同リリースに基づく最新実績です。
利用実績日数は約1.97倍。予約の先行化と低利用駅の活発化も
令和7年度の利用実績日数は、導入前の令和5年度と比べて97.2%増となりました。従来から多かった携帯販促やプログラミング教室のプロモーションに加え、食品・物販など新しいカテゴリの利用が拡大。数カ月先まで予約が埋まるケースが増え、導入前は利用日数が少なかった駅でも活用が進みました。
収益は約2.06倍。関連目標に対する達成率は118.6%
駅構内スペース活用による収益は、令和5年度比106.1%増となりました。比較的単価の高いプロモーション案件の利用拡大もあり、売上構成の幅が広がっています。横浜市交通局の「中期経営計画2023-2026」における関連目標に対する達成率は118.6%となりました。
のべ1000件近い案件に対応しやすい管理体制へ
問い合わせ、申請、許可書、決済などの導線がオンライン上で整理され、進捗状況を一覧で確認しやすくなりました。確認・入金管理などの工数が削減されたことで、のべ1000件近い案件数にも対応しやすい運用体制の整備につながっています。
短期出店が、食品販売事業者の常設出店を判断する場に
駅構内スペースは、短期間の収益を得る場所にとどまりません。利用実績の高い駅では、食品関連の販売事業者が短期出店を経て常設出店を判断した事例も生まれました。駅利用者の反応や需要を確かめるテストマーケティングの場として、将来の出店判断を支える役割も担い始めています。

現在の運用で見えてきた、活用の広がりと次の課題
2026年5月に公表した成果報告では、ショップカウンター導入後、利用実績日数や収益の増加に加え、出店カテゴリや活用駅の広がりも見られました。こうした変化を踏まえ、現在の運用で感じている手応えや、今後さらに改善していきたい点について、横浜市交通局に改めてお話を伺いました。
── 現在の運用で、ショップカウンターの導入効果を特に実感するのはどのような場面でしょうか?
一番導入効果を感じるのは、催事スペースの利用日数が増えたことです。ショップカウンターを通じて日々さまざまなお問い合わせをいただいており、以前からご利用いただいている事業者だけでなく、新たにスペースを知っていただいた事業者にも多くご利用いただいています。
また、一度ご利用いただいた事業者から再度出店のお問い合わせをいただいたり、新たな企画や活用方法をご提案いただいたりすることもあります。こうした機会を通じて、当局としても各駅の新たな活用可能性やポテンシャルを再認識しています。
── 利用実績日数や収益の増加以外に、導入前から変化したと感じる点はありますか?
導入前は、プロモーションを目的とした非物販イベントを中心に貸し出しを行っていましたが、導入直後に物販用途での利用を開始したこともあり、現在では食品、アクセサリー、雑貨など、幅広い業種・業態の事業者の皆さまにご利用いただいています。
また、活用される駅にも変化が見られます。導入前は乗降者数の多い人気駅へのお問い合わせが中心でしたが、導入後は利用可能な駅の情報が広く周知されたことで、住宅地に近接した駅や比較的乗降者数の少ない駅についてもご利用いただく機会が増えています。このように、出店者の多様化と利用駅の拡大が進み、催事スペースの活用の幅が広がっていると感じています。
── 利用をさらに広げるため、運用開始後に新たに取り組んだことはありますか?
ショップカウンターの運用を続けるなかで、季節によって食品関連の出店問い合わせが落ち着きやすい時期があることや、人気駅と比較して未だ注目されていない駅があることも見えてきました。そこで、そうした時期や未活用駅を対象に期間限定の割引キャンペーンを実施しました。
その結果、キャンペーン期間中の2026年8月には、成約額が前年同月比で約7.8倍に伸長。案件数も大きく増え、これまで利用が集中していた一部の人気駅だけでなく、複数の駅へ利用が広がる動きも見られました。
スペースを掲載して待つだけではなく、時期や利用実績を見ながら施策を講じることで、新たな利用機会をつくれる手応えを感じています。
【横浜市営地下鉄|最大50%OFF】出店応援キャンペーン特集
── 駅構内スペースの活用において、現在も課題として残っていることや、今後改善したい点を教えてください。
市内・市外を問わず、初めて利用を検討される事業者の方にとっては、実際の出店イメージを持ちにくいことが課題の一つです。過去の活用事例や写真などの掲載や駅の情報を充実させ、安心してお申込みいただける環境を整えていきたいと考えています。
また、出店にあたっての費用面が利用のハードルとなる場合もあるため、より多くの方にご活用いただけるよう、利用実績等も踏まえながら、使用料のあり方についても今後検討していく必要があると考えています。
利用実績の高い駅に見る、スペース特性と需要の関係
利用実績の高い駅としてセンター南駅、戸塚駅、センター北駅が挙げられます。上位駅に共通するのは、乗降客数だけでなく、視認性の高い動線、他路線への乗り換え、周辺商業施設との接続など、出店目的に結びつく具体的な立地特性があることです。
1位:センター南駅|商業・行政・医療施設が集まる高視認性スペース
改札階に位置する10.0㎡のスペースです。駅前に商業施設、区役所、病院が集まり、平日・休日を問わず幅広い来街者へ訴求できます。ファミリー層や地域住民向けの食品・物販、サービスプロモーションなど、複数の用途を検討しやすい立地です。

2位:戸塚駅|他路線への乗換動線で幅広い層に接触
地下1階のコンビニ横、JR東海道線・横須賀線への乗換動線付近にある6.0㎡のスペースです。通勤・通学客から地域住民まで、多くの利用者の目に触れやすく、認知獲得を目的としたプロモーションや物販に適しています。

3位:センター北駅|大型商業施設への来街者にも届く
改札階の出口付近に位置する10.0㎡のスペースです。駅前の大型商業施設を利用する来街者にも届きやすく、学生から社会人、ファミリー層まで幅広い層が行き交います。平日夕方や休日の物販・プロモーションとの親和性が高い場所です。

スペースオーナーにとって重要なのは、すべての区画を同じ条件で募集するのではなく、駅・施設ごとの利用者層、動線、視認性、周辺施設、適した用途を言語化することです。横浜市交通局の事例では、人気駅の需要を伸ばすだけでなく、利用の少なかった駅にも新しい出店者を呼び込んだ点が、ポートフォリオ全体の活用を考えるうえで参考になります。
出店者と駅利用者をつなぐ、より魅力的な駅空間へ
── 今後、横浜市営地下鉄の駅構内スペースをどのような場にしていきたいですか?
今後は、事業者の皆さまと駅利用者の皆さまをつなぐ接点として、より魅力的な空間にしていきたいと考えています。多様な催事やイベントが行われることで、駅に新たなにぎわいを創出し、交通機関としての本来の機能だけではなく、「行きたい」「立ち寄りたい」と思っていただける場づくりを目指していきます。
── 横浜市営地下鉄への出店を検討する事業者へ、メッセージをお願いします。
ポップアップストアの活用が駅のにぎわいにつながり、出店者と地域の方々の交流が生まれることを目指しています。話題のお店に出店いただければ、SNSを通じて新しいお客さまが横浜市営地下鉄を利用するきっかけにもなります。個人事業主の方にとって、いきなり常設店を構えるのは簡単ではありません。駅スペースを1日単位のトライアルとして活用していただきたいです。改札近くで多くの方の目に触れやすいため、新しい事業や商品の反応を確かめる場としても、ぜひ利用してください。

累計85,000ブランドの出店データと、全国28,000スペースとの取引実績をもとに、出店戦略やオフライン出店における売上最大化に関する実践的な情報を発信中。出店を検討するブランド担当者、ならびに商業施設・レンタルスペース運営者に向けて、再現性のあるノウハウや業界動向をわかりやすく解説することを心がけています。
【メディア掲載実績】「ネットショップ担当者フォーラム」「ダイヤモンド・チェーンストア」「激流」「日経MJ」「日経クロストレンド」「繊研新聞」など。






























