完全予約制のポップアップストアで8万円のオーダーメイドシューズを販売する「AYAME」の戦略
フルオーダーメイドシューズは、納期と高価格が難点。3Dプリンタ技術の活用で納期は通常の1/3、価格は1/5を実現しながら自分の足にピタリと合う靴を提供する「AYAME」「菖蒲」を展開するcrossDs japanのレンタルスペースを活用したポップアップストアとSNSを巧みに使った販売戦略を代表・諏訪部さまに伺いました。

目次
3Dプリンタ技術と職人の匠のハイブリッドによる究極のオーダーメイドシューズ
―株式会社crossDs japanが展開するサービスについて紹介してください。
足の骨の形は一人ひとり違い、量産品のパンプスが足に合うのはなかなか難しいんです。多くの人が「靴が足に合わない」という悩みを抱えていますよね。
特にパンプスは紐靴の様に調整する機能が無いので問題が多く出やすいです。
そこで弊社は3D技術を使った木型(靴型)から左右別で個人専用に作るフルオーダーメイドシューズを製作し、提供しています。
展開しているのは「AYAME」と「菖蒲(しょうぶ)」という2つのブランドです。
「AYAME」はパンプスやショートブーツを、「菖蒲」は革靴やスニーカーを提供しています。どちらも男女問わず、ご自身の足に合った靴を作っています。
―3Dの靴と聞くと、3Dプリンタであっという間に靴ができてしまうような感覚がします。
いえいえ。私達が3D技術を活用しているのは足の計測と木型を設計して実体化するところまでです。
靴って革だけではなくてプラスチック、鉄、といろいろな素材がそれぞれの機能を持って合体して靴として成り立っており、それらを一つの3Dプリンタから作り出すのは今はまだ無理なんです。ですから木型から先の靴本体の制作は職人による手作りです。
―3Dの技術と昔ながらの職人による手作りとのハイブリッドな靴なんですね。料金設定について教えてください。
サブスクリプション方式で、パンプスは月々6,600円×12か月でご自身のものになります。
この費用に1年間の修理やメンテナンス代も含まれてますので、購入の敷居は低いのではないかと思っています。

3Dプリンタで身近な課題解決をしたい
―3Dによるオーダーメイドシューズというユニークな商品で靴業界に参入しようと思われた背景を教えてください。
元々私は靴業界にいたわけでもないんです。
モノ作りを学ぶ学校でロボット製作などについて学んでいましたが、次第にITの方に興味がわき、企業の情報システムを作ったり、コンサルティングするような仕事に従事していました。
ちょうど2009年に3Dプリンタの技術特許が切れたことで誰でも3Dプリンタ市場に参入できるようになり3Dプリンタでのモノ作りが身近になってきました。
そこでもう一度モノ作りにチャレンジしたくなったんです。たまたま当時一緒に働いていた女性が足が痛いという話をしていたので調べたところ、パンプスってすごく問題が多くて、ほとんどの人が「靴が合わなくて痛い」と感じている。
足に合う靴をフルオーダーで作るサービスはあるものの、安くても40万円という価格ですし、完成までに半年以上かかります。
これから女性の社会進出はもっと多くなっていくと感じる中、違うものをひとつひとつ作るのが得意な3Dプリンタの技術を使うことで、短納期・低価格を実現して社会貢献ができればいいなと思ったのが起業のきっかけでした。
―身近にいた方の課題解決から、社会課題にまで向けて考えられたんですね。


SNSで悩み相談。リクエストを募って地方へ出店
―これまでの販売方法やマーケティングはどのように進めていたのでしょう?
弊社の靴の作り方は、お客様の足を3Dスキャナで計測する必要があるので、通販というわけにはいきません。
しかも計測やデザイン選びに1時間~1時間半かかるため、一日で接客できる人数も限られています。
日本橋に店舗を構えてますが路面店ではないですし、高額商品でもあるのでフラッと一見さんがはいってくるような状況でもありません。設立は2020年でちょうどコロナ禍だったこともあり、全然お客様も入らないという状況でした。
そこで、WEBで集客して事前に予約をしてもらい来店してもらうという形でスタートしました。
コロナが落ち着いてからは、外に出ていこうとポップアップ出店を始め、出店する最寄り駅を中心とした半径数十キロエリアにセグメントをかけて、WEB広告を出すといった形で集客をしていました。
広告はGoogle、Yahoo、LINE、Facebook、Instagram、X(旧Twitter)といろいろ試しましたが一番反応が良かったのがXです。予約申し込みの流入元の多くはXからです。
―なぜ、Xが一番反応が良かったのだと思いますか?
Xが文字ベースのメディアだからでしょう。
我々のブランドの特性上、文章で商品の説明や込めている想いを伝えることが重要ですし、それに対してリプライがついてコミュニケーションに発展する。
また質問コーナーでは、ご自身の悩みなどを訴えられてきた方に、その足だとこういうふうにできますよ、というふうに答えることができる。いわば公開接客のようなものになって、お客様のいろいろな悩みと回答がそこに蓄積されていきます。
一般的にネット広告は素材を短期間で差し替えて試行錯誤するのだと思うのですが、弊社はもう1年以上ずっと同じ素材で広告を出し続けているんですよ。
―ある意味オウンドメディアに近いですね。この商品特性を見るとInstagramの方が合うのかなと思ったんですが、違うんですね。
Instagramだと写真1枚・文章1行だけ受け取ってどんどんスクロールされていってしまう。
投稿としてよく行っている制作例の紹介ではデザイン性の高い靴を多くご注文いただくわけではなく実用性の高いモノが多いと言う面もあり、インスタ映えするかというとそうでもないんです。
―ポップアップストアはどういうレンタルスペースに出店していたんですか?
最初は都内で百貨店の催事に参加させてもらったりしていたんですが、そこまで売上には貢献できませんでした。
2022年くらいから東京以外にも出店していこうと、まず最初にいったのが大阪です。
当初は紹介で携帯キャリアショップの店頭スペースをお借りしたところ、予約で7~8割ぐらい埋まり、4ヶ月後に再訪して同じぐらい埋まったので、地方にも需要はあるなという手ごたえを感じました。
その後、X上で「来てほしい場所をリクエストしてください」と投稿し、リクエスト数が多い場所に行くことにしました。
―Xでの出店エリアの募集投稿以外に集客面での工夫があれば教えてください。
弊社のように、対面接客で時間がかかったり、お客様としっかりお話したいとか、商品単価が高いという場合でしたら、あらかじめ予約を取るのが今後はもっと一般的になるかもしれないですね。
あとは、まだ試していませんが特別なゲストを呼んで使い方を解説するといった、この時間に来店したくなるメリットを仕込むと集客率は高くなるかなと思います。
―ポップアップストアに関する広告運用のテクニカルな面での工夫はありますか?
普段、Xでの広告は関東圏しか配信していませんが、例えば先日行った北陸地方では、開催に先立ち通常のオーガニック投稿を開催地近辺に配信ターゲット設定し、広告としてセットして出店2ヵ月くらい前から配信しました。さらに予約受付開始となる開催1ヶ月前に、集中投稿して予約に繋げています。最近のポップアップ開催ではこのように事前の認知をはかった上で予約へ誘導するようにしています。
幅広い選択肢がある「SHOPCOUNTER」をチョイス
―Xを活用して事前予約を取った上で出店するというシンプルな仕組みは無駄がないですね。SHOPCOUNTERをご利用いただくことになった経過は?
百貨店はどうしても出店時の手続きが複雑だったり、経済条件の折り合いが難しい事もあります。
一方で携帯キャリアショップは、ポップアップに対応した店がそれほど多くはない。
当時キッチンカーのように車両を貸してくれるサービスなども検討しましたが、もっと幅広いエリアに対応したサービスはないのかなと調べていく中でSHOPCOUNTERに行きついたという感じです。
初めてSHOPCOUNTERを使ったのは2023年の札幌でした。
レンタルスペースはホテルのロビーの一角だったので、備品の置き場所も確保いただき、セキュリティもしっかりしており、荷物も前日に届けば良かったりと、もう至れり尽くせりでした。

そこで、大阪でもSHOPCOUNTERで探してみたところ、リーズナブルなところや街の中心地に近いところも数多くあったので驚きました。
開催1ヶ月前に開始した予約受付が2週間ぐらいで枠がいっぱいとなりました。以前の出店と比べても立地を変えたことで反響が大きく違う事にも気がつけました。

―具体的にどういう条件でレンタルスペースを選んでいますか?
Xでの出店リクエストから行く地域が決まったら、まず希望の場所をSHOPCOUNTERで価格でソートします。
携帯キャリアショップで借りたときの値段(1日15,000円)を基準にして、あまり高いようなら候補から外します。あとは駅や中心街からのアクセスの良さと、落ち着いて接客できそうなところを選んでいます。
弊社の場合は、いくら人通りの多いところを選んでも一見さんでは購入に結び付かないので、人流の多さは重要ではないんです。
ポップアップストアとひとくちに言っても、出店ニーズは様々だと思いますが、SHOPCOUNTERは選択肢が多いところがいいですね。

マーケティング施策としての“ポップアップストア”の優位性とは
―2023年から出店してみての効果をお聞かせください。
弊社の場合、一人の接客に1時間~1時間半かかってしまうため、1日に5枠確保できるかどうかです。2ヵ月に1度のペースでポップアップストアを出店しているので年間で90枠くらいでしょうか。それがほぼ埋まっていますね。予約から成約までだいたい90%以上と高い割合でつながっています。
―ポップアップの優位性についてはどのように感じていますか?
今は、実店舗は東京にしかありません。それだけだとどうしてもカバーできる範囲が限られてしまうので、需要を掘り起こしていくにはこうやってポップアップストアを活用して気軽に全国各地に出ていけるというのはとても有効だと思っています。
また、将来的には直営店を増やしたいと思っているんですが、いきなり店を出すとなるとハードルが高いですよね。
外れたら大きな損失ですから。けれども、札幌はいつ出店しても予約が埋まって他エリアよりも明らかにニーズが高いぞ、となればそこでの出店判断の材料になります。 そういったテストマーケティングの場としてもポップアップストアは非常に重要かなと思います。
そのほかにもポップアップストアに来てくれたお客様は、特にこちらからお願いをしなくともSNSで発信をしてくれることが多いです。
「東京のお店には行けないけれど、ポップアップで来てくれたから、行ってきたよ」と口コミをしてくれるのはありがたいですね。
―うまく集客ができなかった場合もあるかと思いますが、それはどのように捉えているのでしょうか?
X上で「来てください」というリクエストポストが一定数あったのに、3日間出店して数件しか予約が入らなかったということもあります。
そういうことが続いたエリアには、ここでの出店は頻度を少し調整してもいいかな?とか、通常3日間の開催だけど、2日に短縮するか?とか、次の計画の目処を立てられるので、得られることは必ずあります。
やればやるほど無駄がなくなり最適化されていくんです。やってみなきゃわからないことって結構たくさんあるんですよね。
ポップアップをやろうかどうか悩んでいるのであればやってみて、失敗だったら次に生かせばいいと思いますよ。直営店など固定された店舗での失敗は大きなダメージとなりますが、ポップアップストアは多少目標を外しても一時の事なので損失は少ないですから。
―なるほど。売上以外の視点があると捉え方は変わってきますね。
AYAMEの商品ラインナップ


年間販売数9,000足を目指して
―今後の展望についてお聞かせください。
今後も地道にポップアップストアの出店を続け、SNSも活用しながら新規顧客の獲得を努めていこうと思っています。
今は、地方に2ヵ月に1度は出店するようにしているんですが、来年はもう少し頻度を上げ、いろいろと回ってみて、その地方にどのぐらいの需要があるのかを探っていく。
並行して札幌に直営店を構え、1年に1店舗のペースで店舗を増やし、将来的にはアジア、アメリカにも進出を検討したいです。
また、現在はポップアップストアで計測から注文受付まで行っているんですが、将来的には現地で必須の計測だけに絞れば、もっと多くのお客様にサービス提供できるかなと思います。
職人も増やして、現在の3倍の注文まで対応し、2032年までには年間販売数9,000足を目指すという目標をたてています。
―靴の悩みは万国共通ですから、多くの人の課題解決ができれば素晴らしいですね。ありがとうございました。
会社名:株式会社crossDs japan(クロスディーズ ジャパン)
所在地:東京都中央区日本橋堀留町1−5−7YOUビル2F2A
代 表:諏訪部 梓
設 立:2019年12月
事業内容:サブスク型オーダーメイドシューズの製造・販売・運営
公式サイト :婦人靴 AYAME https://www.hana-ayame.info/
紳士靴 菖蒲 https://www.shoubu.info/
公式X:https://x.com/AYAMEheel
公式Instagram:https://www.instagram.com/ayameheel/

インタビュイー
諏訪部 梓さま
(株式会社crossDs japan 代表取締役社長)
足の形状を3Dスキャナで計測した靴型をもとに職人による手仕事で世界で一つのオリジナル靴を製作するサブスクリプションサービスを展開。2020年2月よりサービスイン。ブランドは「AYAME」と「菖蒲」を展開。
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