消費者の価値観が変化する中で注目を集める「リキッド消費」は、所有にこだわらない新しい消費スタイルです。Z世代を中心に広がるこの消費傾向は、従来の「ソリッド消費」とは異なる特徴を持ち、現代社会に普及し始めています。本記事では、リキッド消費の概念からリキッド消費が増加した背景、メリットまでを詳しく解説します。
リキッド消費とは、モノやサービスを長期的に所有することを前提とせず、必要に応じて柔軟に商品を利用する消費行動を指します。リキッド(liquid)は英語で「液体」を意味し、液体のように移ろいやすく、掴みどころがないことを表現しています。
リキッド消費は、2017年にイギリスのマーケティング学者によって提唱され、以下の3つの特徴を持つものとして定義されています。
リキッド消費の特徴の1つ目は、儚い、短命であることです。商品やサービスに価値を感じるのが一時的で、特定の商品やブランドに執着せず、価値を感じるものが変化する傾向があります。その時の自分の好みやニーズに合わせて柔軟に消費行動が変わります。
アクセスベース(access based)
リキッド消費の特徴の2つ目は、アクセスベースであることです。商品やサービスを所有するのではなく、価値を享受できれば一時的な消費で満足できるという考え方です。例えば、車を購入するのではなく、カーシェアリングサービスを利用するといった行動が挙げられます。
脱物質化(dematerialized)
リキッド消費の特徴の3つ目は、脱物質化です。デジタル化が進んだことで、手で触れられるような物質(実物)でなくても良いという考え方が広まりました。例えば、「紙の本ではなく、電子書籍でよい」「CDではなく、サブスクリプションの音楽サービスでよい」といった具合です。
上記の特徴から、近年の消費傾向としてモノ消費から、体験や経験を重視するコト消費が重視されていることが分かります。
リキッド消費の代表的なサービス例としては、以下のようなものがあります。
サブスクリプションサービス
月額や年額を支払い、商品やサービスを定期的に利用することです。主に音楽配信サービスや動画配信サービスなどが挙げられます。また、無形商材だけでなく、おもちゃや家電、楽器のような、買い替えが頻繁に起こるものや高額な有形商材のサブスクリプションサービスもニーズがあります。
シェアリングサービス
個人や企業が所有しているモノやサービス、場所をシェアして、必要な人が必要なときだけ利用できるサービスです。例えば、カーシェアリングやシェアサイクルのような乗り物を共有したり、物件や駐車場などをシェアしたりするなどです。また、洋服のレンタルサービスの利用も広まっており、定額で様々なテイスト・ブランドの服や小物を楽しめるのが特徴です。
リサイクル・リユースサービス
不要になったものを売却・購入するサービスのことで、フリマアプリやリサイクルショップなどが挙げられます。リキッド消費とは一見無縁のように思えますが、リサイクル・リユースサービスで手に入れたものを長期的に所有する想定でないという傾向が強く、短命な一面を持っています。
リキッド消費は、特にZ世代の若者を中心に急速に広がっており、企業もこの新しい消費傾向に対応したビジネスモデルの構築を迫られています。ここでは、リキッド消費が増加した時期とその背景について詳しく見ていきます。
リキッド消費という言葉が生まれたのは2017年で、2010年代後半から顕著に増加し始めたと言えます。この時期は、Z世代(1990年代終盤から2010年代初頭に生まれた世代)が消費の主役として台頭してきた時期でもあります。
リキッド消費が増加した背景をZ世代との関係性から考えると、下記のような要因が挙げられます。
モノよりもコトを重視する
現代の若者はミニマリスト化しており、モノを所有せずに、体験や経験を重視するコト消費の傾向が見られます。CDやDVDを購入せずにサブスクリプションサービスで音楽や動画を楽しんだり、車や自転車を所有せずにシェアサービスを利用するなどです。
また、SNSの普及により、「今」の体験や経験を重視し、それを共有することに価値を見出す文化が形成されました。これは、リキッド消費の考え方と親和性が高いものです。
デジタルネイティブ世代
リキッド消費は、デジタルの普及の影響を大きく受けています。上述したサブスクリプションサービスをはじめ、あらゆるものがデータとして携帯やパソコンなどの端末で事足りるようになりました。
Z世代は生まれた時からデジタル技術に囲まれて育ったデジタルネイティブ世代で、実体がなくても本や音楽、動画を楽しめる、実店舗に行かなくても買い物ができる、といったことが日常生活に深く浸透しています。オンラインサービスの利用に抵抗がないため、デジタル技術を活用したリキッド消費に自然に馴染んでいます。
コスパ、タイパを重視する
Z世代に限らずではありますが、コスパ(コストパフォーマンス)やタイパ(タイムパフォーマンス)を重視する傾向が強くなっていることもリキッド消費の増加に影響しています。
購入するよりもレンタルした方がお得、モノを所有するよりもシェアした方が管理費や処分費用がかからずに済む、という考え方が主流になっています。
環境意識の高まり
Z世代は、環境問題に対する意識が高く、サステナブルを意識した消費行動をとる人が増えています。そのため、新しいものを購入するのではなく、中古品を購入したり、シェアしたりすることで十分満たされる、目的が果たせる、という考え方をします。リキッド消費は、このような環境意識とも合致した消費スタイルです。
このように、様々な要素が絡み合うことで、Z世代を中心にリキッド消費が広がっていきました。リキッド消費の影響は若い世代にとどまらず、他の世代にも徐々に浸透しつつあります。
リキッド消費の対になる消費スタイルとして、「ソリッド消費」があります。ソリッド(solid)は、英語で「固体」を意味し、長期的な所有や使用を前提とした消費スタイルのことを指します。
リキッド消費の3つの特徴と反対に以下のような特徴があります。
ソリッド(solid)消費 | リキッド(liquid)消費 |
永続的(enduring) | 儚い(ephemeral) |
所有ベース(ownership based) | アクセスベース(access based) |
物質的(material) | 脱物質化(dematerialized) |
ソリッド消費は、商品やサービスを購入し、それを長期的に所有することに価値を見出します。例えば、家や車、耐久消費財を購入し、それを自分の財産として保有するなどが挙げられます。
ソリッド消費とリキッド消費は、反対の意味をもつ言葉ですが、対立するものではなく、状況や個人の価値観に応じて使い分けられるものです。実際、多くの消費者は両方の消費スタイルを組み合わせて生活しています。
リキッド消費は、消費者と企業の双方にさまざまなメリットをもたらします。ここでは、主要な3つのメリットについて詳しく説明します。
リキッド消費のメリットの一つに、経済的な負担が少ないことが挙げられます。例えば、車を購入する場合、車両購入費やメンテナンス費用、税金など、何かとお金がかかってしまいますが、カーシェアリングを使用すれば、サービス料金を支払うだけで利用できます。
このようなサービス形態は、無料体験や一時利用のように、手軽にサービスを始めることができるため、企業側も顧客獲得がしやすいことが特徴です。ただし、顧客が離れてしまわないように継続してサービスの改善や開発を続けることが求められます。
リキッド消費は、所有にこだわらないからこそ、様々な商品・サービスを手軽に体験できることが特徴です。
例えば、サブスクリプションサービスは定額を支払うことで、多くの作品や商品に出会うことができ、使えば使うほど、コストパフォーマンスが高くなります。そして、利用頻度が減った場合には、サービスを解約したり、プランをダウングレードしたりと柔軟に利用方法を変更できます。
また、サブスクリプションサービスであれば、新商品や新曲のように、評判がつかない状態でも追加の料金がかからずに消費者に試してもらうことができるのが企業にもメリットになります。
リキッド消費が増加した背景と内容が重複しますが、リキッド消費は、環境への配慮と持続可能性の観点からも大きなメリットがあります。
リキッド消費により、商品のシェアや再利用が促進されることで、全体的な生産量を抑制し、資源の効率的な利用につながります。例えば、カーシェアリングサービスでは、1台の車を複数の人が共有することで、車の生産台数を減らすことができます。
また、個人が所有するモノの数が減ることで、廃棄物の減少につながります。そして、レンタルやサブスクリプションサービスでは、商品のライフサイクルを管理しやすく、適切なリサイクルや再利用を実現できるのです。
企業側も、リキッド消費モデルを採用することで、環境への配慮を示し、ブランドイメージの向上につなげられます。
リキッド消費は、デジタル技術の進化と新しい世代の価値観の変化を背景に普及し始めた新しい消費スタイルで、Z世代を中心に支持を集めています。所有にこだわらず、必要な時に必要なものを利用する、コトを重視するリキッド消費は、今後の消費行動や企業のビジネスモデルに大きな影響を与えることが予想されます。
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