ファストファッションが主流となった現代においても、ファッション業界においてオートクチュールは変わらず注目され続けています。本記事では、一点一点手作業で仕上げられる究極のラグジュアリーファッションであるオートクチュールに焦点をあて、その歴史や現在における役割、代表的なブランド、ポップアップストア事例について紹介します。
オートクチュール(Haute Couture)とは、フランス語で「高級仕立服」を意味し、パリ・クチュール組合の加盟店(サンディカ)が顧客の注文により完全オーダーメイドでデザインした一点物のことを指します。一般的には、パリのクチュール組合加盟店で作られたものをオートクチュールと呼びますが、製造過程でオートクチュールの技術を取り入れている場合に、加盟店以外でもオートクチュールと呼ぶことがあります。
また、パリのサンディカ加盟店は「メゾン・ド・クチュール(Maison de Couture)」と呼ばれています。オートクチュールを手がけることを公式に認められたものだけが加入できますが、コレクションの開催数や発表数、アトリエのスタッフ数など、規約が定められています。このような厳しい規約に基づいて運営されていることから、多くの会社が脱退しているのが現状です。
オートクチュールは1868年、フランスでクチュール組合(サンディカ)が創設されたことに始まります。19世紀から20世紀初頭まで、パリでは高級仕立店が多く存在しており、オートクチュールの定義が曖昧でした。そこで、デザイナーのシャルル・フレデリック・ウォルトが高級仕立店をサンディカとして組織化したのです。
サンディカの設立により、デザイナーがデザインしたものを顧客の体に合わせて仕立てた服を販売するという「デザイナー主導」の製造方法が確立されました。そのため、デザイナーはアーティストのような位置付けとなり、顧客は「デザイン(=芸術作品)を買う」という意識に変化したため、デザイナーの社会的地位が向上しました。
しかし、1960〜70年代に「プレタポルテ(高級既製服)」が主流となり、オートクチュールを製造するメゾンがプレタポルテも手がけるようになります。オートクチュールは、赤字になることが多く、縮小傾向にありますが、オートクチュールの服を作っていることがブランドの品格を高めることにつながります。結果としてプレタポルテや他事業の売上が伸びることから、赤字経営でもオートクチュールを製造し続けているという側面もあります。
ファストファッションが世界中に普及した現代において、オートクチュールにはどのような役割があるのでしょうか。オートクチュールの役割を3つ紹介します。
従来、王族をはじめとする格式高い家柄の方や実業家、著名人がオートクチュールの顧客として考えられていましたが、現在では、インフルエンサーやアーティストなど、顧客の幅が広がってきています。そして、ブランド愛用者はオートクチュール以外にも、同一ブランドのアイテムを合わせて楽しんでくれる傾向があります。
そのため、新たな層にブランドの世界観を伝え、ファンになってもらうためにもオートクチュールが重要な役割を担っています。
オートクチュールを扱うブランドの多くが、オートクチュール以外の商品、特に香水を展開しています。香水は、手が届きやすい価格帯で、老若男女、幅広い層に受け入れられやすいアイテムです。
オートクチュールのショーを開催することで、格式高いブランドイメージを確立することができ、結果として、香水事業の売上アップにつながっています。
オートクチュールが継承してきた伝統技術と、最新技術を掛け合わせることで、これまでになかったデザインが誕生するという相乗効果が期待できます。オートクチュールの技術にアップサイクルの考え方を取り入れたり、3Dプリントの技術が活用されたりと、時代を反映したデザインが生まれるのもオートクチュールがあってこそといえます。
オートクチュールの代表的なブランドとその概要を紹介します。
CHANEL(シャネル)は、1909年にガブリエル・シャネルによって創設されました。1915年からクチュールハウスの出店を始め、第二次世界大戦期に一時、クチュール界から退きましたが、1954年にオートクチュールを再開しました。
シャネルの代表的なアイテムとして、コスメや香水「オードゥ・パルファムN°5」、チェーンバッグ「マトラッセ」などがあります。
DIOR(ディオール)は、1946年にクリスチャン・ディオールによって設立されました。1947年にパリのオートクチュールコレクションでデビューし、エレガントな女性らしいシルエットが「ニュールック」として評価されました。
ダイアナ元妃が愛用したことから「レディ・ダイアナ」の愛称から「レディ ディオール」に改名されたバッグや、香水の「Miss Dior」などが代表的です。
BALENCIAGA(バレンシアガ)は、1918年にクリストバル・バレンシアガによってスペインで創設されました。オートクチュールから始まったブランドで、創設者のバレンシアガは「クチュール界の建築家」と称されるほど高い技術を有していました。バレンシアガの引退と同時にオートクチュールから撤退していましたが、2021年にオートクチュールが再始動しました。
キャンバス素材のトートバッグ「ネイビー」シリーズや封筒のような形のミニウォレット「ペーパー」、ダッドシューズブームを牽引した「トリプルS」などが有名です。
FENDI(フェンディ)は、1925年にアドーレ・フェンディとエドアルド・フェンディによってローマで設立されました。革製品店としてスタートし、毛皮のコートを販売したことで成功をおさめます。カール・ラガーフェルドを主任デザイナーに迎え入れたことで、さらに革新的なデザインのアイテムが展開されるようになりました。
台形フォルムが象徴的な「ピーカブー」やフロントに「FF」のロゴモチーフのバックルがある「バゲット」などのバッグが人気です。
ブランド名 | 特徴 |
IIMISA(イイミサ) | 2014年にデザイナー伊井 美沙によって設立された日本のファッションブランド。 |
VALENTINO(ヴァレンティノ) | 1960年、ヴァレンティノ・ガラヴァーニによって始まったイタリアを代表するラグジュアリーファッションブランド。 |
VALENTIN YUDASHKIN(ヴァレンティン ユダシュキン) | 1980年、ロシア出身のデザイナーであるヴァレンティン ユダシュキンが設立したブランド。 |
VERSACE(ヴェルサーチェ) | 1978年、ジャンニ・ヴェルサーチェが設立したミラノのラグジュアリーブランド。 |
Elizabeth Emanuel(エリザベス エマニュエル) | 1990年、エリザベス・エマニュエルによって始まったロンドンのファッションブランド。 |
Elie Saab(エリー サーブ) | 1982年、エリーサーブがレバノンで始めたブランドで、主にドレスを扱う。 |
Elsa Schiaparelli(エルザ スキャパレリ) | 1930年、「エルザ スキャパレリ」の名前でブティックをオープン。シャネルと並ぶデザイナーとして活躍。 |
Herve Leger(エルベ エジェ) | 1985年、エルベ・エジェによって設立されたフランスのファッションブランド |
Carolina Herrera(キャロリーナ ヘレラ) | 1980年、キャロリーナ ヘレラがニューヨークでスタートしたドレスブランド。 |
KOJI ATELIER(コージアトリエ) | 1972年、デザイナー渡辺弘二がジャンポール・デュナンと共に創立したオートクチュールメゾン。 |
Charles Frederick Worth(シャルル フレデリック ウォルト) | オートクチュールの祖と言われるシャルル フレデリック ウォルトが設立したブランド。1954年にオートクチュールとしてのメゾンはクローズしている。 |
JEAN PAUL GAULTIER (ジャンポール・ゴルチエ) | 1976年、ジャンポール・ゴルチエによって作られたフランスのファッションブランド。 |
JEAN-LOUIS SCHERRER(ジャンルイ シェレル) | 1962年、ジャンルイ シェレルが設立したオートクチュールメゾン。ディオール、イヴ・サンローランの元で働いた経験を持つ。 |
Giorgio Armani(ジョルジオ アルマーニ) | 1975年、ジョルジオ・アルマーニが設立したイタリアのラグジュアリーブランド。 |
Stephane Rolland(ステファン ローラン) | 2007年、ステファン・ローランによってパリに開かれたオートクチュールメゾン。 |
Charles James(チャールズ ジェームス) | 1926年、チャールズ ジェームスによってアメリカのシカゴで生まれたファッションブランド。アメリカ初のクチュリエ。 |
Torrente(トラント) | 1968年、ローズ・トラント=メットがフランスで創業したオートクチュールのブランド。 |
HARDY AMIES(ハーディ エイミス) | 1945年、ハーディ・エイミスが創業したイギリスのクチュールブランド。現在はブランド休止中。 |
BCBGMAXAZRIA(ビーシービージーマックスアズリア) | 1989年、マックス・アズリアがアメリカで設立したファッションブランド。 |
Maison Margiela(メゾン マルジェラ) | 1988年、マルタン・マルジェラによってパリに設立される(当時は「メゾン マルタン マルジェラ」)。2015年1月、現在の「メゾン マルジェラ」に改名。 |
Yumi Katsura(ユミカツラ) | 1964年、日本初のブライダルファッションデザイナーとして活動を始めた桂由美のファッションブランド。 |
rabanne(ラバンヌ) | 1966年、パコ・ラバンヌによってパリで設立されたファッションブランド。(当時は「パコ ラバンヌ」) |
RYUNOSUKEOKAZAKI (リュウノスケオカザキ) | 2018年、岡﨑龍之祐によって始まったファッションブランドで、主にドレスを展開。 |
LVMH Moet Hennessy Louis Vuitton S.A. (LVMH モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン) | 1987年、ルイ・ヴィトンとモエ・ヘネシーが合併して誕生したコングロマリット企業。フランスを本拠地とし、ラグジュアリー商品に特化している。 |
オートクチュールブランドが開催したポップアップストアの事例を紹介します。
株式会社阪急阪神百貨店の PR TIMES より画像引用
阪急うめだ本店が2024年のストアメッセージとして掲げる「世界に、あそび心を。」の一環として、サステナビリティをテーマに開催されたファッションイベントです。
本店で捨てられようとしていた古布、装飾素材、古傘、古紙、ハンガーの5つの素材を活用して作られた、ドレスを含む5体のオートクチュールが展示されました。職人の技と環境配慮を融合させた新しいラグジュアリーの形を表現しています。
パルファン・クリスチャン・ディオール・ジャポン株式会社の PR TIMES より画像引用
2024年、ディオールはご褒美スキンケアとして人気の「プレステージ」ラインの世界観を体験できる没入型イベントを開催しました。肌タイプ診断と分析結果に合わせたオリジナルドリンクが味わえる「ローズバー」など、自分の肌を知ることができるコンテンツが盛りだくさん。
ローズでデコレーションされたベンチや、ディオールプレステージの香りが楽しめるゲートなど、写真を撮りたくなる美しいスポットも用意されており、細部までブランドの世界観が表現されています。
オートクチュールは、現代でも、最高級の職人技と創造性を体現するものとして進化を続けています。ポップアップ事例で紹介したように、格式高いオートクチュールを現代に掛け合わせることで、ブランドが表現したい想いをカタチにするアイデアが生まれる一助となるかもしれません。
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