公開日:2017年5月11日
更新日:2023年11月30日

ファッション・ビジネスの未来を創造するために、今必要なこととは? vol.2

日本に初めて「ファッション・ビジネス」という言葉を紹介し、「創造する未来」を出版した尾原蓉子氏の講演書き起こしを、3回に分けてご紹介します。vol.2は、ディスラプションが起きた根底にあるものと、テクノロジーの活用について解説するパートです。

大手アパレル企業とD2Cモデル(Direct to Commerce)のビジネスを手掛けるTO NINE Inc.(代表取締役社長 増田智士)が、「ファッションビジネスの大潮流」と題して開催した、「創造する未来」著者である尾原蓉子氏の講演書き起こしを、3回に分けてご紹介するシリーズのvol.2。

» vol.1はこちらから

売上の縮小や大量閉店など、暗いニュースが続くファッション業界は、今後どのように変化していくのでしょうか。

日本にいち早く「ファッション・ビジネス」という言葉を持ち込み、変化の激しいファッション業界をビジネス視点で捉え続けてきた尾原氏が、今後のファッション・ビジネスを考える上で重要なポイントについて解説します。

vol.2では、vol.1で紹介された市場の変化とディスラプション(秩序の創造的破壊)が起きた背景、ファッション・ビジネスにおけるテクノロジー活用のパートをご紹介します。

ファッション・ビジネスにおけるディスラプションの根底にあるもの


▲ファッション・ビジネスの未来について熱く語る尾原蓉子氏

先ほどご紹介した5つの事例の根底にあるものを、私たちはしっかりと理解しなければなりません。

書籍の中では、3つの要因をご紹介しました。

1.マズローの欲求段階の変化

2.創造する価値の進化

3.二分化の進行

まずは、マズローの欲求段階の変化についてですが、我々先進国ではすでに、第4段階の承認欲求を超えて、第5段階である自己実現の欲求に入っています。

今までの第4段階はすべて欠乏の欲求で、「ないからほしい」というものでした。

「優越の欲求」である第4段階も、尊敬されていないから、有名ブランドのアイテムを持って尊敬されたい、という欲求ですね。

ブランドものを持つことへの欲求も、一般大衆向けブランドから優越ブランドへと移行し、第5段階の今は、「自分にとって特別」という価値が重要になっています。

有名ブランドかどうかは関係ないと、そういう時代です。

次に創造する価値の進化ですが、時代とともに価値と主たるプレイヤーが段階的に変化しています。

こちらは著作の111ページにも図解していますので、ぜひ読み込んでいただきたいと思います。

ここで重要な点は2つあります。

1つは、20世紀は企業側の、売り手の論理をベースにした価値創造でしたが、今は買い手の論理に変化しています。

押し付けるのではなく、パーソナルな、その人にフィットしたものを提案することが求められます。

そしてもうひとつは、価値創造の主たるプレイヤーが製造業から小売業を経て、個人へ移行しているということです。

そのくらい現代は、価値創造の中心に個人がいるということです。

最後の変化は、二分化の進行です。

トレンド価値がまったくなくなるということはありませんが、重要性は減って、「ソリューション価値」と「エモーション価値」の2つに分けられるようになります。

ソリューション価値というのは、ユニクロのヒートテックやエアリズムに代表されるような、問題解決のためのアイテムですね。論理的な購買を促します。

それ対して、エモーション価値というのは、感情で動く購買です。

感情は人によって異なりますので、ありとあらゆるものが対象になります。

おばあちゃんの形見のイヤリングもそうですし、最近ではアルプスで育った特定のヤギからとれた毛糸のみを使って作った、1年に7着しか作れないセーターなんかもでてきました。こちらは非論理的な購買行動です。

この事例で象徴的なのは、airbnbで貸し出されている、ヴァン・ゴッホが描いた自室の絵を再現した寝室です。

シカゴ芸術大学と一緒に制作されたものなのですが、いくら出してもいいから泊まりたいという人も多いはずです。

今後はこうしたクリエイティブなものを作っていかなければ、どんどんAIにとって替わられることになってしまいます。

クリエイティブを発揮するためには、テクノロジー活用に向けたインフラ整備が不可欠


▲講演中は、参加者全員が熱心に耳を傾けた。

さらに世界中でネット売上が伸びている中で、Amazonがますます脅威になっています。

ドローンによる個人宅へのデリバリーも昨年の12月に開始しましたし、Amazon Alexaというパーソナルアシスタントも人気です。

先日私の友人が、家に帰ってAlexaに「疲れたよ」と話しかけたところ、「お疲れさま」と答えてくれたことに感動していました。

亡くなった人の声を吹き込んで再現することも出来るようになるでしょうし、今後高齢化社会が進む中で、こうしたパーソナルアシスタントの需要は増えていくと思います。

また、日本でも話題になったAmazon GOもありますね。

先日、コンビニ大手5社が無人レジを取り入れることを発表しましたが、今の無人レジは多少時間の節約にはなるけれども、やはり手間がかかるわけです。

中国で電話線ケーブルを引く前に、一足飛びにスマートフォンが普及したように、一足飛びにAmazon GOのような形態になる可能性も十分あると思います。

次に、オムニチャネルについてもお話したいと思います。

アメリカの大手百貨店であるノードストロームとメイシーズでは、オムニチャネルを取り入れたことで、業績を大きく伸ばしています。

今回は、ノードストロームの事例をご紹介します。

ノードストロームでは、Pinterestで人気の高いアイテムを集めて売場で展開しています。

商品の入れ替えは、売場の判断で行っているというのもポイントです。

また、メルマガも非常にうまいですね。

今シーズンの靴を紹介するメルマガでは、靴だけではなくボトムスも入れた足元全体の写真を使っています。

それによって、コーディネートの参考にもなりますし、購買意欲も高まります。

画像の美しさはもちろん、情報量が多く、コンテンツのクオリティが高いと感じます。

最近では、メッセージアプリを活用した情報発信も行っています。

今はもう、Eメールよりもこちらの方が効果が高いそうです。

さらにこれは極め付きなのですが、True Fitというアプリの会社があります。

ここはアメリカ人女性のサイズとフィットの関係を調べていまして、ECで買い物をしているとき、自分のサイズデータをもとに「このアイテムはこのサイズがぴったりです」とレコメンドしてくれるサービスです。

例えば普段サイズ6の人でも、ブランドやアイテムによって「このアイテムは、お客様にはサイズ6はフィットしません」といった情報も出してくれます。

この背後には、膨大な量のデータとアルゴリズムがあります。

そして最後に、産業構造の変革についてお話します。

ご存知の通り、日本のファッション産業は非常に複雑で、旧態依然とした仕組みです。

利益構造を見ても、1990年には工場製品価格が上代価格の40%あったものが、現在では半分の20%になってしまっています。

それでは今後どうするべきかというと、アメリカのQR(Quick Response)を推進するための国家プロジェクトが参考になります。

アメリカでQRが推進される前は、原材料であるコットンフィールドから、製造して小売店に並ぶまで、66週かかっていました。

しかしその66週の間には手待ち時間が非常に多いということで、そこを省けば21週にまで短縮することができるというのがアメリカのQR推進の考え方でした。

現在では、この目標はほぼ達成されています。

日本でQRというとシーズン対応という意味で取られられており、それによって同じ商品ばかりが市場に出てしまうのですが、QRの真髄は手待ち時間を省き、工程を短縮するということなのです。

また、テキスタイル、アパレル、リテールはそれぞれ業界として分断されていますが、よく考えてみると市場調査をし、企画して、商品化したら展示会を開催するといったかたちで同じようなことをやっているんですね。

そこでそれぞれの業界で共通していることを、同じプラットフォームで同時に共有できれば、ひとつの商品を中心に全員がリアルタイムで情報を受け取ることができます。

これをプロダクト・ライフサイクル・マネジメントと言います。

例えば、デザインに変更があった場合にデザイナーが情報を更新すると、工場も生地メーカーも、リアルタイムで新しいデザインを把握できます。

そうすることで、工程が可視化され、透明性をもってコラボレーションができるようになります。

我々は今、こうした方向に進みつつあります。

この動きが将来的にどうなるかというと、4つのDと言われるデザイン(Design)、生産(Development)、展示(Display)、流通(Distribution)4つが統合され、リアルタイムに結びつくということです。

これはZARAの事例ですが、本社工場では商品企画、販売促進、カントリーマネージャーが、仕切りのないワンフロアの大部屋で働いています。

オフィスのあちこちにテーブルと椅子があり、気になることがあったら10分程度の軽いMTGをしょっちゅうやるんです。

ZARAでは、創業社長を含む幹部11人が全員揃ってトヨタの工場へ出向き、現地でジャスト・イン・タイムを勉強したんですね。

そこで学びながら議論を重ねた結果、こうしたオフィスの設計になったそうです。

こうした部門間のリアルタイムな情報共有は、新しいテクノロジーの発達によって、さらに革新の可能性があると考えています。

最後にまとめとしてですが、AIが得意なことはAIに任せ、テクノロジーを有効に使うことで、私たちは創造力をフルに発揮し、ファッション・ビジネスの未来を創りあげていきましょう。

それが今回、私が一番お伝えしたかった点です。

本日はありがとうございました。

»vol.3 「8人のパネリストから、尾原氏への公開質問」を読む

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