SHOPCOUNTER MAGAZINE

2016年5月26日

ファッション業界で成功するスタートアップ・失敗するスタートアップの違いとは?

ファッション系のスタートアップが続々と誕生しているNY。この記事ではNYのファッションスタートアップMeetup(NYC×Fashion×Startup)のトークセッションから、成功するファッションスタートアップのポイントを考察します。

5/16に開催された「NYC×Fashion×Startup」。
NYのスタートアップ・シーンやファッション・ビジネスに興味のある人たちのためのMeetupイベントで、ルビーグループが運営するTheFLAGの運営責任者・吉岡芳明氏が発起人となって開催されました。

今回はイベント後半の識者5名によるパネルディスカッションの後編をレポートします!

パネルディスカッションレポートの前半はこちらから
Material Wrld Co-Founder・矢野莉恵氏のトークセッションレポートはこちらから

NYで成功するには徹底したローカライズとエモーショナルなストーリーが重要

▲左からモデレーターの(株)ソウゾウ代表取締役社長 松本龍祐氏、Material Wrld Co-Founderの矢野莉恵氏、RE(株) 代表取締役江原理恵氏

松本氏:NYで日本のファッションスタートアップが成功するためには何が必要なのでしょうか?

江原氏:私は食系の会社を参考にしています。
例えば大戸屋は成功例のひとつで、すでにニューヨーカーのライフスタイルに溶け込んでいます。
これはヘルシーなライフスタイルを好む人が増えたという時代の流れの後押しもあると思います。

西洋と同じ土俵で戦うのではなく、日本にしかない面白いものや日本ならではのストーリーがある方が人気がでるように思いますね。
日本は技術力が高いので、アメリカ人が手を出さないような分野で製品力に強みをもってやれば成功する可能性は高いと思います。

松本氏:ローカライズはどういった点を意識すればよいのでしょうか?

矢野氏:先日NYの一風堂に行ってきたのですが、日本のラーメン屋さんのイメージとは全く異なるNYの一般的なレストランのような雰囲気で、ローカライズがうまいなと感じました。

前菜からメイン、ラーメン、デザートというコースで1人8,000円ほどかかったのですが、この値付けの仕方もポイントで安ければいいわけではなく、少し高めの金額設定の方がいい場合もあるんです。

江原氏:まずは現地で生活してみることが第一ですが、「海外ドラマにもヒントがたくさんあります」。

例えば欧米文化圏の人たちは麺をズルズルすすれないので、少しずつ食べるために一杯を食べきるのに日本人よりもかなり時間がかかります。
また「ディナーに行く」ことへの捉え方も違って、日本のように15分くらいで食べてすぐにでるということはないですし、非日常の世界観を求める傾向にあります。

一風堂の成功はそういったニューヨーカーたちの感覚を知ってうまくローカライズさせたことにあると思います。

矢野氏:あとは “Japanese”を全面に出し過ぎるとうまくいかないと思います。
ファッション自体がクールで、実は made in Japanだった、というくらいがよいと思います。

増田氏:ZARAがどこの国のブランドがあまり知られていないのと同じですね。

NYでも日本でも、これからはクオリティとデザイン性が高いアイテムを安く提供できるブランドが評価される

▲左から(株)TO NINE 代表取締役 増田智士氏、(株)ソウゾウ Webデザイナー 井上雅意氏、土屋鞄製造所 沼田 雄二朗氏

松本氏:日本とアメリカでファッションの捉え方や購買行動の違いを感じる部分はありますか?

沼田氏:「アメリカはハイブランドの人気が高い」イメージがあります。
日本は中間層が多いからか、どちらかというと低価格〜中価格帯のブランドが多いですね。

アメリカには UNITED ARROWS や SHIPS のような店舗やセレクトショップのオリジナルブランドのような商品が少ない気がします。

矢野氏:それも最近変わってきていて、ミレニアル世代は「これは3~5万円払う価値があるのか?」「商品代金のほとんどはマーケティング費なのではないか?」とかなりシビアな目でブランドや商品を見るようになってきています。

「1万円前後の価格帯で、クオリティが高くて洗練されている」。そんなブランドが最近は伸びてきていますね。
Rue La La(ルー・ラー・ラー)というフラッシュセールサイトのCEOが新しいサイトを立ち上げて、本来なら7~8万円で売れるイタリア製の靴を1~2万円で販売するといったことを始めています。

最近人気が高まっているスニーカーブランドのGreats(グレイツ)も1万円以下でクオリティの高いスニーカーを販売しています。
GreatsはInstagramから人気が出て、SNSの使い方もうまい印象ですね。

増田氏:これまで『「かっこいいけれど高い」だったのが「かっこいいし安い」になってきています』よね。

あと、欧米系のブランドはエモーショナルな部分がうまい印象があります。
日本は合理性が重視されていて、安くて品質が高いものを突き詰めている気がします。

合理性とエモーショナルの2つを両立させていくことが日本のブランドの課題に感じます。

井上氏:どうしてもデザインに日本らしさというのはでてしまうのでデザインに関してはローカライズせずに戦えると思いますが、売り方やストーリーをローカライズする必要はあると思います。

マーケティング、プロモーション、ストーリーは現地に合わせて柔軟に変えていくことが求められていますよね。

松本氏:NYのスタートアップはマーケティングはどのように行っているのでしょうか?

矢野氏:お金をかけてアウトソースしているところが多いですね。
WARBY PARKERはサービスのローンチ前から全米で一番高いエージェンシーに依頼して、半年かけて準備をしていました。
そのおかげでVOGUEなどの紙媒体にも掲載されて、華々しいスタートを切りました。

「日本は職人気質なので、いいものを作ってもマーケティングにあまり投資しない」ブランドが多いように思います。

ただお金がないアーリーステージのスタートアップも、人脈を使ってインフルエンサーにブログやInstagramでの紹介をお願いしているところが多いです。
GreatsもInstagramから人気がでたブランドですが、スニーカー界隈で有名なインフルエンサーに投稿してもらったりしていましたね。

今アメリカではインフルエンサーのコストが高騰していて、1回の投稿で500万円ほどかかることもあるのでつながりでやっているとことが多いです。

沼田氏:日本ではInstagramの効果測定が難しいことから参入できていないブランドも多いと思いますが、アメリカでは効果測定はどのように考えられているのでしょうか?

矢野氏:アメリカではInstagramはブランディング部門の仕事になっていて、「ブランドの名刺だと思って運用している」ところが多いですね。
Instagramを見てブランドの良し悪しを判断されるところまでいってしまっているので、運用せざるをえない状況になっているという感じです。

松本氏:ブランドの立ち上げと同時にオンライン担当ができるイメージですか?

矢野氏:そうですね、ファッション業界の方はオンライン分野に疎いことも多いので、若手のインスタグラマーを採用するといった動きも活発です。
そういった人気のインスタグラマーはどのブランドからもひっぱりだこなので、いろんなブランドを渡り歩く人が多いですね。

オンラインとオフラインをバランス良く使いこなすブランドが成功していく

松本氏:ではここからは質問に移りたいと思います。

質問者:今後パーソナライズはファッション分野においてどのように発展していくと思いますか?

増田氏:海外のサイトを使って買い物をすると、完璧にトラッキングされているのがわかります。
システム化されているにも関わらず精度も高いので、完璧にパーソナライズドされているなと感じるので、日本もこれからさらに精度の高いパーソナライズが可能になっていくと思います。

矢野氏:レストランやスポーツグッズと比べて、アパレルは「テイスト」があるのでまた違った難しさがあるように思います。
自分の好みでないものが一度でもレコメンドされると「このサービスは私のことをわかっていない!」となってしまうので、そういった部分では自動化の限界を感じます。

質問者:NYにおけるパーソナルショッパーの動きを教えてください。

アメリカではPS Dept(ピーエス・デパートメント)というパーソナルショッパーサービスが人気で、百貨店とコラボしたりもしています。

パーソナルショッパーサービスの難しさは、人力だとスケールさせるのが難しく、マシーンラーニングによるBotだと紹介の精度が低いのでこのバランスをどうとっていくかという点だと思います。

質問者:接客とデジタルの融合は今後どのように発展していくと思われますか?

増田氏:今後は接客以外の体験を提供するということが重視されていくように思います。
ショップを売るだけの場所ではなく、「ブランドを体験する場」にしていく必要があるのではないでしょうか。

沼田氏:確かにオンラインだけでは伝えきれないブランドの世界観もありますよね。
実際土屋鞄でも、「ある地域に出店したところ同時にオンラインの売上も伸びた」という実績もあります。

以前TrunkClub(トランククラブ)というオンラインパーソナルショッピングサービスが期間限定でお店をもって、そこでじっくり接客したりシャンパンを振舞ったりして会員のロイヤリティを高めた例が話題になっていて、これはオフラインでしか提供できない価値だなと。

矢野氏:オンラインメインのブランドも、「一度オフラインを挟むことでLTV(ライフ・タイム・バリュー=顧客生涯価値)が飛躍的に伸びる」ということがわかってきているので、「ポップアップストアを頻繁に設けてリアルの場を持つブランドが多い」ですね。

井上氏:デジタルとの融合という意味では、今後はチャットbotにも可能性を感じます。
これまで100%人力で行っていたことをある程度まで自動化するといったことができるのではないかと。

矢野氏:チャットに関しては日本や韓国の方が進んでいる印象ですね。
アメリカでは最近やっとSNSのbotがでてきたくらいで、実はアジアの方が進んでいます。

井上氏:Wechatのショッピングモールにも興味があります。

質問者:リテール・ファッション業界で成功するスタートアップと失敗するスタートアップの違いはどういった点にあると思われますか?

松本氏:この質問は全体のまとめとして、5名全員に答えていただきましょう。

増田氏:そもそもリテールやファッション業界はレッドオーシャンです。
その中でも生き残っている企業は、「情と理性のバランス」がよいように思います。

お客様とのコミュニケーションが密になりすぎると親近感がですぎてブランド価値が下がってしまうので、その距離感をうまくとっているところが成功しているイメージですね。

井上氏:考え方としてはアプリやゲームと同じで、まずローンチの際の話題作りが重要だと思います。
そのあと徐々に口コミが減ってきたときに、どう対応して変化させていけるか、「いかにお客様を飽きさせないか」が成功のポイントのように感じます。

沼田氏:まずブランドビジネスはやらなければならないことが多くて、面倒なこともたくさんあります。
リアルなモノを扱っているので、製造して輸送して販売して、というのは非常に手間がかかることです。

だからこそ最終的に「商品に対してのパッション」がないと続けていくのは難しいのではないかと思います。

矢野氏:資本政策と会社のビジョンが合うことが重要だと思います。
市場規模以上の資金調達をしてしまうと、投資家から求められる成長規模を達成するために本来のビジョンとは異なる事業や領域に手を出さざるをえない状況になってしまうこともあります。

冷静に「自分たちのビジョンと市場規模を見据えた資本政策」が重要だと考えています。

江原氏:沼田さんもおっしゃっていたように、ブランドビジネスは手間もかかるし理不尽なこともたくさん降りかかってきます。
すでに使用済みの商品が返品されてきたり、クレームも多かったり…。

ブランドビジネスをやる上では、それらをひとつひとつ「丁寧に根気よくやっていく姿勢」が必要なのではないかと思います。